報道されたのは、大阪大学大学院医学系研究科の研究グループがまとめた結果です。この研究グループは、HPVワクチンの積極的勧奨差し控えによる接種率低下のため、2000~2003年生まれの女子のほとんどは接種しないまま対象年齢を超え、将来の罹患者は合計約17,000人、死亡者は合計約4,000人増加する可能性があると言っています。
しかし、この数字はあくまで推計です。「Q HPVワクチンの接種を受ければ子宮頸がんを予防できるのですか。」で説明したように、HPVワクチンが子宮頸がんを予防する効果は証明されていません。この研究で、HPVワクチンの子宮頸がん予防効果が新たに証明されたわけではありません。
さらに、この研究での推計は、HPVワクチンの効果を非常に大きく見積もる仮定の上に成り立っています。例えば、次のようなことを指摘できます。
①HPVワクチンを接種すれば、HPV16型/18型に起因する子宮頸がんを完全に予防できる。HPV16型/18型の感染予防効果は生涯続く。
⇒このような予防効果は証明されていません。
②日本人女性の子宮頸がんの原因のうちHPV16型/18型の占める割合は60%であり、HPVワクチンを接種すれば子宮頸がん患者が60%減る。
⇒60%という数字は、日本人女性の子宮頸がん患者のうちHPV16型/18型が検出される人の割合からとったものです。しかし、子宮頸がんを引き起こすハイリスクHPV(発がん型HPV)は他にもあります。他の型のHPVに同時に感染している場合もあるため、16型/18型の感染がなくなったとしても、他の型のHPVによって子宮頸がんになる可能性があります。また、HPVワクチン接種でHPV16型/18型の感染が減ったものの、他の型が増えたため、ハイリスクHPV全体でみると20歳前後の女性のHPV感染率は変わらないか、むしろ多くなっているという報告もあります。
③今後子宮頸がん検診の受診率に変化がない。
⇒日本の子宮頸がん検診の受診率は、まだ十分に向上の余地があります。受診率が上がれば、早期発見早期治療による死亡者の減少が期待できます。
④子宮頸がん患者の治療成績(致死率)も変わらない。
⇒がん治療は進歩を続けていて、治療成績の改善も考えられます。
以上のような仮定で、研究グループは、①HPVワクチンの接種率が高かった1994~1999年生まれの世代では子宮頸がん罹患者数・死亡者数が減るはずだという前提に立ち、②これに対し、ほとんど接種をしていない2000~2003年生まれの世代では、罹患者数・死亡者数が減らない、③その減らない罹患者数・死亡者数をとらえて「増加する」と言っているのです。
したがって、報道された罹患者数や死亡者数の増加は、大きく見積もられた推計の結果であり、正しいものとはいえません。