厚労省の副反応検討部会は2021年10月1日、副反応被害者に対する「寄り添った支援」が行われているとして、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の積極的勧奨再開の妨げとなる要素はないとするとりまとめを行いました。
これに対し、HPVワクチン薬害訴訟全国原告団・弁護団は、2021年10月12日(火)正午より、HPVワクチン副反応被害者への本当の「寄り添った支援」を考える緊急院内集会を参議院議員会館において開催しました。
参院・衆院で午前午後と本会議が予定される大変タイトな状況の中にも関わらず、各党の国会議員のみなさま13名、秘書の方15名にご来場をいただくことができました。
ご来場いただいた議員の方は次のみなさまです(ご挨拶順)。
阿部知子衆院議員(立憲民主)、野田国義参院議員(立憲民主)、松木謙公衆院議員(立憲民主)、舟山康江参院議員(国民民主)、徳永エリ参院議員(立憲民主)、山谷えり子参院議員(自民)、福島みずほ参院議員(社民)、岸真紀子参院議員(立憲民主)、倉林明子参院議員(共産)、吉田忠智参院議員(立憲民主)、近藤昭一衆院議員(立憲民主)、石橋通宏参院議員(立憲民主)、川田龍平参院議員(立憲民主)。
このほかに高橋千鶴子衆院議員(共産)が会場にメッセージを寄せて下さいました。
オンライン参加の地方議会議員・支援者の方々や各地の被害者などを合わせると、緊急開催であったにも関わらず、200名を越える参加者による集会となりました。
集会では、まず、HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団共同代表の山西美明弁護士より、これ以上副反応被害者を増やしてはならないとの決意表明を申し上げました。
同じく共同代表の水口真寿美弁護士からは、HPVワクチンの接種勧奨再開に向けた議論の問題点と、被害者の置かれた状況についてのブリーフィングを行いました。
本年10月4日に公表した弁護団意見書「積極勧奨再開に関する副反応検討部会の審議の不当性について」においても詳述しましたが、今回のHPVワクチンの接種勧奨再開を進めようとする動きには、4つの問題点が認められます。
①危険性を過小評価していること
副反応検討部会は、HPVワクチン接種後の被害者には、疼痛症状のみに留まらず、感覚系や運動系、自律神経・内分泌系、さらには認知・情動系にも及ぶ多様な症状が重層的に出現しており、多くは今も回復していないという実情を全く把握しようとしていません。他のワクチンと比較しても、障害等の発生を理由とした年金支給認定数は20倍以上にも及んでいます。
国内外の多くの論文は、SPECT画像による脳血流量の低下や各種自己抗体の検出結果等に基づいて、HPVワクチン接種後の副反応症状が免疫介在性の神経障害であることに対する警鐘を鳴らしていますが、副反応検討部会はこうした論文を審議資料として全く取り上げていません。
②有効性を過大に評価して検診を軽視していること
他方、HPVワクチンの子宮頸がんの予防効果は証明されていません。海外でのデータも30歳までの患者を取り上げたものに留まっています。早期にワクチンを導入したイギリスやオーストラリアでは、むしろ接種世代で子宮頸がんが微増傾向にあることも報じられています。
そもそも子宮頸がんには検診という安全性と有効性の確立した予防方法が存在しています。HPVワクチンの接種を受けても、対象型以外のHPV感染は予防できないため、検診は必須です。国立感染症研究所が今年1月に公表した資料においても、HPVワクチン接種と比較した検診強化策の費用対効果の高さが客観的に示されていますが、現在の議論では検診の有用性が著しく軽視されたままとなっています。
③「寄り添った支援」が行われていないという実態を無視していること
今回、副反応検討部会が、被害者に「寄り添った支援」が行われているととりまとめたことに対しては、今も副反応被害に苦しむ多くの女性から、あまりに実態とかけ離れているとして、「今度こそ本当に見捨てられたんだなと思いました」「書類の上では行政による支援が行き届いているのかもしれませんが、残念ながら私にその実感はありません」というような、強い憤りの声が上がっています。
実際に、協力医療機関体制は機能しておらず、受診しても詐病扱いされた例も少なくありません。被害救済認定率も他医薬品・他ワクチンと比較して低いままです。教育や就労上の支援もなく、差別・偏見に苦しむ被害者も少なくありません。
④HPVワクチン接種を推進する背景に厚労省と企業の癒着が存在すること
こうした数多くの問題点を無視したまま、MSDは、国との非公式な協議で勧奨再開時期を定めて準備したとされるワクチンの在庫が廃棄処分になるなどと述べた「警告文書」を国に交付して、勧奨再開を促したことが報じられています。MSDの担当執行役員は元厚生労働省の医系技官です。
しかし原告団・弁護団からの要請にも関わらず、今も国はこの「警告文書」の公開に応じていません。
今回の勧奨再開に向けた動きには、こうした不透明な背景事情が存在しています。
こうした問題点を説明した上で、水口弁護士からは、被害者に対する本当の「寄り添った支援」とは治療法の研究開発を進めることであり、治療体制を整備していくことであって、こうした施策を進めていく上では、当事者である被害者のヒアリングが必須であること、そして何よりも接種勧奨が再開されて被害者をさらに増やしてはならないことを、参加者に伝えました。
その後、各地の被害者から、その深刻な実情を説明しました。
東京訴訟原告の園田絵里菜さんの発言です。
千葉県から来ました園田です。年齢は24歳です。
HPVワクチンの接種を受けたのは14歳で中学3年生の時でした。それから今10年経ちました。
10年経って今の症状は、特にここ最近は睡眠障害や倦怠感があって良くない状態の中で暮らしています。
今日、移動するのも車いすだったり、マスクをしていることで酸素ボンベを車いすの後ろに積んだ状況で来ています。
何かをするのにも介助が所々必要なので、介助を少しづつ受けながらやっとです。
食事をする身だしなみなど身の回りのことがやっとです。
支援が十分にできているという話でしたが、病院が千葉県にはないので毎回県境を越えて神奈川県まで行っていて、病気を抱えながら暮らすのがとても大変なままです。
同級生は就職をしていますが、私は外出できるのが1週間に1回が限度の生活です。
支援体制が整っているとは、とてもじゃないけど言えないのではないかな、と思います。
東京訴訟原告15番さんの発言です。
現在20歳です。
私はHPVワクチンの接種を2回受けました。中学校にもまともに通えませんでした。現在の症状は関節の痛み、重度倦怠感、膝から下の痛み、短期の記憶喪失、光のまぶしさで外に出るときはサングラスをつけないといけません。
自宅では杖を使っていますが、長時間の外出の時は車椅子です。外出した時は疲れがひどくなり2日間寝込みます。現在も、痛みで寝つきが悪くなったり、夜中に何度も起きてしまいます。痛みで眠ることができないくらい痛みで起きることもあります。
協力医療機関では、初めの頃はいじめられているでしょうとか、データをみても異常は無いので治療はできないといわれました。今も通っていますが、結局はアドバイスをもらうだけの診察です。治療方法は、認知行動療法で、朝日を浴びてラジオ体操といわれます。
協力医療機関に通い始めた頃、あなたは若くて簡単だからすぐに治ると言われました。言われるままに積極的に朝起きてなどしましたが、現在も症状は改善していません。
10月1日に行われたHPVワクチン副反応検討部会では、副反応に苦しんでいる被害者のことを全く理解していません。国はアドバイスしかしない病院で、患者に寄り添っているといっているのでしょうか。
声をあげても、国はまったく聞いてくれません。被害者の実情を知らずに積極的勧奨の再開の決定をすることはあってはならないと思います。
私は12歳からずっと、たくさんの人に「助けて下さい、力を貸してください」と頭を下げてきました。あとどれだけ頭を下げればいいのですか。今助けを求める数人の声しか、ここにいる人の声しか救えないのですか。そんなことはないはずです。
ここにいらっしゃるのは国会議員の先生で、現状を変える力があります。元の身体に戻ることを諦めることはできません。どうか力を貸してください。
九州訴訟原告の梅本美有さんは福岡県からオンラインで参加し、次のように発言しました。
福岡県に住んでいる梅本美有、23歳です。
中学3年生で3回目の接種を受けてから8年以上経つ今でも、様々な症状に苦しんでいます。
痛みと倦怠感がひどく、1週間毎日仕事に行けたことはありません。まだ仕事を始めて1年経っていませんが、仕事は厳しく感じています。
痛みがひどいときは、1か月ベッドで、痛み止めが効かないので、堪えるだけです。
症状が出始めた頃、県外にある指定医療機関に行きましたが、検査入院を経ても何も問題がなく、治療は不要と言われ行かなくなりました。もしかしたら治ったとカウントされているのではと思います。
私は、これまで何年も、以前の健康な体にもどしてほしい、治療法を確立してほしいと訴えてきました。しかし、先日の副反応検討部会で、国は寄り添った支援ができていると言われ、腹が立ちました。
寄り添った支援とは何でしょうか。接種勧奨中止から8年間放置し、治すための努力はせず、協力医療機関も形骸化しています。寄り添うという言葉を使えばいいのでしょうか。
まずは病態を確立し、治療をして、生活の支援をしてください。
失われた青春時代は取り戻せませんが、これから苦しむ時間を減らすことはできます。
本当の意味での支援をお願いします。
全国薬害被害者団体連絡協議会の花井十伍代表世話人もオンラインで参加し、薬害エイズ事件の被害者として国に様々な要請を行ってきた経験を踏まえて、次のように発言しました。
国が積極勧奨を再開するというが、基本的なことができていません。感染研でもPMDAでも科学的に考えなければならないのに、経済的理由や思惑によって公衆衛生行政の意思決定を怠っています。冷静さを取り戻すことに尽力してもらいたい。
もう1つは、寄り添った支援の第一歩として、実際に患者さんを診察している先生を中心に研究班を作り、ディスカッションをするべきです。議員のみなさまの力があれば、明日からでも実現可能だと思います。具体性があり実現も難しくない。彼女たちが日常生活を取り戻すことができるよう、みなさまのお力で研究班の実施をしてもらいたい。
厚労省のいう「寄り添った支援」とは欺瞞であり、どの口が言うのだろうと思う。
研究班設置は可能だと思う。HIVの時は和解が成立してからでしたが、今回はぜひ速やかに実現してほしい。
国会議員のみなさまからは、被害者に対する暖かい支援と力強い連帯のお言葉を順次賜りました。
「本当に大切なのは、被害者に治療を届けること。一緒に頑張りましょう」
「しっかり実態を調査・研究していくこと、被害者を支援していくことが必要であり、国会の中で力を合わせてやっていきましょう」
「1人の命が大切、その気持ちをしっかり持っていきたい」
「前回の院内集会にも参加させていただいて、被害者の切実な声を聞きました。思春期の若い女性が反応に実際に苦しんでいる、それに耳を傾けないといけません」
「実際に病院が無いということでもあるので、私達は当事者の声を聴いて寄り添った支援をしたいと思っています」
「厚生労働省がしっかり支援しなければ。課題解決なくゴーサインはだめです。教育就労の支援、被害者のヒアリングへの努力が足りません」
「副反応を放置したまま、推奨だけをしていくということを危惧しています」
「今も様々な病状に苦しむ被害者の声に直接触れて、何を言おうかわからなくなるくらい、様々な思いがこみ上げてきました」
「有効性ばかりが強調されて被害の実情に目が向けられていない。正面から向き合って解決が求められていると改めて学ばせてもらった」
「当事者の声を厚労省は真摯に聞かないといけない。微力ですが、超党派で取り組んでいきたい」
「当事者に真に寄り添わないといけません。頑張っていきたい」
「急転直下、なし崩し的に積極的勧奨が進められることに何とかしなくてはと思ったところでした。われわれがもっと国会で頑張らなくてはいけない。超党派でがんばりたい」
「思春期を過ぎ将来の夢を奪われた原告の声を聴きなぜ原因究明に尽力しないのか。どさくさで決めるのは許されません。皆様の声を無駄にしないため全力で頑張ります」
「本当に子宮頸がんを予防したいのであれば、検診もやらなければいけないのに、検診が抜け落ちています。国会議員として、超党派で取り組んでいきたいと思います」
こうした力強いお言葉の1つ1つによって、副反応検討部会の様子に強い憤りと不信を覚えた被害者の女性達も、自分たちがまだ社会から見捨てられていないんだと、心から感じることができたと思います。
HPVワクチン薬害訴訟全国原告団・弁護団は、こうした心強い応援の声に励まされながら、より多くの方と連帯の輪を広げるべく、引き続き活動を続けてまいります。
被害者への本当の寄り添った支援の実現のために、そしてこれ以上新たな被害者が出現しないようにするために、引き続きお力添えをいただけますよう、あらためてお願い申し上げます。
どうかこれからもご支援ください。
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