2021年10月4日、HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団は、本年10月1日に開催された厚労省副反応検討部会において、HPVワクチンの積極的勧奨の再開について「妨げとなる要素はない」とする不当なとりまとめを行ったことに対し、同部会における審議の不当性に関する意見書を作成・公表しました。
HPVワクチンの危険性を示す知見と被害実態の双方を無視した不当な審議が行われていることについて、広く知っていただければと願っております。
積極勧奨再開に関する副反応検討部会の審議の不当性について
2021年10月4日
HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団
1 10月1日の副反応検討部会は、HPVワクチンの積極的勧奨再開の妨げになる要素はないとするまとめをしました。
しかし、このとりまとめは、以下のとおり、HPVワクチンの危険性を示す知見と被害実態を無視した不当なものです。
2 まず、安全性については、危険性を示す多数の論文等をあえて除外した資料に基づいて審議されており、科学的根拠を欠いています。
(1) HPVワクチンの副反応症状は、頭痛、全身疼痛、知覚過敏、脱力、不随意運動、歩行障害、激しい倦怠感、睡眠障害、重い月経障害、記憶障害、学習障害等、多様な症状が一人の患者に重層的に現れる特徴をもった重篤なものです。
(2) 部会は、副反応症状を「痛み」によるものとしか捉えておらず、被害者が長年苦しんでいる深刻な病態を理解していません。
(3) この病態の特徴や副反応症状が免疫介在性の神経障害であることを示す査読論文が、副反応患者を診察した国内外の臨床医らによって多数公表されていますが(別紙1)、これらは全く審議資料とされていません。
(4) 海外の疫学調査論文を安全性の根拠としていますが、これらはHPVワクチンの副反応の病態を適切に捉えたものではなく、観察期間も短いなど限界のあるものです。これらの調査の限界を指摘する論文もありますが、部会には提供されていません。
名古屋調査についても、問題のある解析方法によって因果関係を否定した論文だけが資料とされ、調査結果はむしろ因果関係を示唆するとする査読論文[1]は資料とされていません。
3 次に、HPVワクチンの有効性に関する審議も不十分です。
(1) HPVワクチンが子宮頸がんを予防する効果は依然として証明されていません。
部会では、子宮病変に対するHPVワクチンの有効性を示すものとしてスウェーデンとデンマークの疫学調査の結果が示されていますが、いずれも30歳までのデータにすぎません。30歳以下ではそもそも子宮頸がん罹患者が少なく、生涯罹患率を減少させることは何ら示されていません。
(2) HPVワクチンを早期に導入したイギリスやオーストラリアでは、ワクチン接種世代において、子宮頸がんが減らないばかりか微増の傾向があることが報告されていますが[2],[3]、そうした情報も部会の審議資料となっていません。
(3) 子宮頸がんには、「検診」という副反応がなく効果が科学的に実証されている予防手段があります。
(4) HPVワクチンは一部の型にしか効果がなく、接種しても検診受診が必要であり、費用対効果も検診の方が優れていることが国立感染症研究所の報告書でも指摘されています[4]。しかし、そのことも考慮されていません。
4 「HPVワクチン接種後に生じた症状に苦しんでいる方に寄り添った支援」に関する審議は、あまりに実態から乖離しています(別紙2乃至4)。
(1) 治すための確立した治療法がないことをまず部会は理解していません。認知行動療法では治らない被害者が多数いるのです。
副反応疑い報告の頻度は約1000人に1人、その約半分が重篤です[5]。そして、HPVワクチンは、副作用被害救済制度において障害等の認定を受ける頻度が他のワクチンの20倍以上なのです[6]。
積極勧奨を再開すれば、副反応患者が増加します。部会はそれを前提に、副反応患者が増えたときに協力医療機関が対応できるように数を増やすべきだなどと議論していますが、健康な若年女性に接種するワクチンによって深刻な被害を受ける被害者が増えること自体が問題なのです。部会は、このことが全く分かっていません。
(2) 協力医療機関体制は機能していません[7]。協力医療機関を受診する被害者が少ないのは、受診しても適切な治療を受けられず、患者を詐病扱いする医師がいるからです。部会は協力医療機関の実態を知らなすぎます。
(3) 救済制度についても、判定不能が多く、不支給率が一般の医薬品よりも高く、救済が不十分であるということが理解されていません[8],[9]。
5 2021年10月1日からの積極勧奨再開の審議の開始は、HPVワクチンのメーカーであるMSD社と厚労省の間で秘密裏に行われた再開に向けた協議と、これを背景にしたMSD社(執行役は元厚労技官)と自民党議連の圧力に大臣が屈した結果です。私たちは、厚生労働省に対し、MSD社から受領した書面の開示を求めていますが[10]、未だに開示がありません。
改めて書面の開示を求めるとともに、科学的根拠を欠いた、積極勧奨再開ありきの副反応部会の審議に強く抗議するものです。
以上
[1] Yukari YAJUら「Safety concerns with human papilloma virus immunization
In Japan:Analysis and evaluation of Nagoya City’s surveillance data for adverse events(日本におけるHPVワクチンの安全性に関する懸念: 名古屋市による有害事象調査データの解析と評価)」Japan Journal of Nursing Science (2019)
[2] イギリス政府の統計ウェブサイト(https://www.ons.gov.uk/)内のCancer registration statistics, England(イングランドにおけるがん登録統計)
[3] AIHW(Australian Institute of Health and Welfare)のウェブサイトCancer data in Australia https://www.aihw.gov.au/reports/cancer/cancer-data-in-australia/contents/cancer-summary-data-visualisation
[4] 国立感染症研究所「9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンファクトシート」(2021年1月13日)p62~63 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000770615.pdf
[5] 第66回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会資料
[6] HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団「被害救済制度における障害・死亡の認定頻度の比較」https://www.hpv-yakugai.net/app/download/8095939254/210800%20kyusai-hikaku.pdf?t=1633259762
[7] 同弁護団「副反応症状と治療・生活の実態調査報告」(2020年2月5日)
https://www.hpv-yakugai.net/app/download/8095940354/200205%20higai-chosa.pdf?t=1633260381
[8] 健康被害の救済給付に係る審査件数等の実績(令和2年1月27日予防接種基本方針部会資料抜粋)https://www.hpv-yakugai.net/app/download/8095939854/200127%20kyusai-shinsa.pdf?t=1633260330
[9] 長南謙一ら「医薬品副作用被害救済制度におけるHPVワクチンの副作用給付状況について」(医薬品情報学第22巻1号)2020年
[10] HPVワクチン薬害訴訟全国原告団・弁護団意見書(2021年9月3日)https://www.hpv-yakugai.net/tamura/
別紙1
国内外査読文献リスト
HPVワクチンの危険性を示す論文としては、副反応患者を診療した臨床医らによる病態の特徴に関する研究、免疫介在性の神経障害であることを示す研究、疫学的調査に関する研究などが多数あるにもかかわらず、全く副反応部会の審議資料とされていない。以下に、査読論文の一部を例として列記する。
<接種後の病態の特徴や免疫介在性神経障害であることを示す文献>
1 Tomomi Kinoshitaら「Peripheral Sympathetic Nerve Dysfunction in Adolescent Japanese Girls Following Immunization with the Human Papillomavirus Vaccine」・Internal Medicine 53巻19号・2014年
2 Louise S.Brinthら「Orthostatic intolerance and postural tachycardia syndrome as suspected adverse effects of vaccination against human papilloma virus(ヒトパピローマウイルスのワクチン接種によるものと疑われた副反応としての起立性調節障害および体位性頻脈症候群)」・Vaccine 33巻22号・2015年4月
3 Takashi Matsudairaら「Immunological studies of cerebrospinal fluid from patients with CNS symptoms after human papillomavirus vaccination」Journal of Neiroimmunology 298巻71-78頁・2016年
4 Takashi Matsudairaら「Cognitive dysfunction and regional cerebral blood flow changes in Japanese females after human papillomavirus vaccination」・Neurology and Clinical Neuroscience 4巻16号1-8頁・2016年
5 牧美充・高嶋博「自己免疫性脳症のスペクトラムとびまん性脳障害の神経症候学」・BRAIN and NERVE 69巻10号・2017年10月
6 池田修一「子宮頸がんワクチン接種後の副反応:わが国の現状」・昭和学士会雑誌第78巻4号・2018年
7 横田俊平ら「Human papilloma virus(HPV) vaccination-associated neuro-immunopathic syndrome(HANS):a unique symptomatic spectrum and the pathological role of hypothalamus」・自律神経55巻3号・2018年
8 Svetlana Blitshetyn他「Autonomic dysfunction and HPV immunization: an overview(自律神経機能障害とHPV予防接種:概観)・Immunologic Research66巻6号・2018年11月28日
9 黒岩義之ら「Human papilloma virus vaccination(HPVV)-associated neuro-immunopathic syndrome(HANS):a comparative study of the symptomatic complex occurring in Japanese and Danish young females after HPVV(ヒトパピローマウイルスワクチン接種[HPVV]関連神経免疫異常症候群 [HANS]):HPVワクチン接種後若齢日本人・デンマーク人女性に生じた複合症状の比較研究)」・自律神経55巻1号・2018年
10 Shani Dahanら「Cardiac arrest following HPV Vaccination (HPVワクチン接種後の心停止)」・Clinical Research and Trial 2019 Vol 5・2019年
<HPVワクチンの性質等に関する文献>
11 Rotem Inbarら「Behavioral abnormalities in female mice following administration of aluminum adjuvants and the human papillomavirus (HPV) vaccine Gardasil(アルミニウムアジュバントとHPVワクチンガーダシルの接種後の雌性マウスにおける異常行動)」・Immunologic Research 65巻1号・2016年7月16日
12 Darja Kanducら「From HBV to HPV: Designing vaccines for extensive and intensive vaccination campaigns worldwide(HBVからHPV:幅広く強力な世界的予防接種キャンペーンのためのワクチンデザイン)」Autoimmunity Reviews 15巻11号・2016年8月1日
13 Yahel Segalら「Vaccine-induced autoimmunity:the role of molecular mimicry and immune crossreaction(ワクチン誘発性自己免疫:分子相同性の役割と免疫交差反応)」Cellular & Molecular Immunology 2018年15号・2018年
<疫学的調査等に関する文献>
14 Elmar A.Jouraら「A 9-Valent HPV Vaccine against Infection and Intraepithelial Neoplasia in Women」・New England Journal of Medicine・2015年
15 Manuel Martinez-Lavinら「HPV vaccination syndrome.A questionnaire-based study(HPVワクチン接種症候群:質問票に基づく検討)」・Clinical Rheumatology 2015 Nov;34(11) ・2015年9月10日
16 Rebecca E. Chandlerら「Current Safety Concerns with Human Papillomavirus Vaccine: A Cluster Analysis of Reports in VigiBase(ヒトパピローマウイルスワクチンの安全性に関する現在の懸念:VigiBase®収載報告のクラスター分析)」・Drag Safety・2016年9月16日
17 Manuel Martinez-Lavinら「Serious adverse events after HPV vaccination: a critical review of randomized trials and post-marketing case series(HPVワクチン接種後の重篤な有害事象:無作為試験および市販後症例集積研究[症例シリーズ]の批評的論評」・Clinical Rheumatology・2017年7月20日
18 池田修一ら「Suspected Adverse Effects After Human Papillomavirus Vaccination: A Temporal Relationship Between Vaccine Administration and the Appearance of Symptoms in Japan.(ヒトパピローマウイルスワクチン接種後に疑われた副反応:日本におけるワクチン接種から症状発現までの時間的関係)」・Drug Safety・2017年7月25日
19 Yukari YAJUら「Safety concerns with human papilloma virus immunization In Japan:Analysis and evaluation of Nagoya City’s surveillance data for adverse events(日本におけるHPVワクチンの安全性に関する懸念: 名古屋市による有害事象調査データの解析と評価)」・Japan Journal of Nursing Science (2019)・2019年
20 Rebecca E Chandler「Modernising vaccine surveillance systems to improve detection of rare or poorly defined adverse events(稀なあるいは十分に定義づけられていない有害事象検出の改善のためにワクチン監視システムを改革する)」・BMJ2019・2019年5月31日
21 Peter Doshiら「Adjuvant-containing control arms in pivotal quadrivalent human papillomavirus vaccine trials: restoration of previously unpublished methodology(四価ヒトパピローマウイルスワクチンの主要な臨床試験におけるアジュバント含有対照薬: これまで未発表の試験方法を修正)」・BMJ Evidence-Based Medicine Published Online First・2020年3月17日