2021年10月1日午後1時より、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会が開催され、HPVワクチン接種の積極的勧奨の再開を妨げる要素はないとする、極めて不当なとりまとめがなされました。
HPVワクチン薬害訴訟全国原告団・弁護団は、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会・全国薬害被害者団体連絡協議会・HPVワクチン東京訴訟支援ネットワークとともに、厚生労働省内において抗議の会見を行いました。
外資製薬企業の圧力に屈する形でこの日の検討部会が開催されることに抗議するために、台風による風雨の中ではありましたが、検討部会開始の直前には、厚生労働省前においてHPVワクチン東京訴訟支援ネットワーク主催による緊急街頭アピールを行い、全国の被害者からの抗議のメッセージを厚労省の会議場に向けて発信しました。
午後1時から開催された副反応検討部会では、冒頭でHPVワクチンの接種勧奨再開の扱いが議題とされましたが、被害者の置かれた過酷な実情を全く無視したような説明と議論に終始したまま、再開を妨げる要素はないとするとりまとめが行われました。
この不当な議事をオンラインで会議を傍聴した各地の被害者からは、直ちに憤りの声が寄せられました。
午後6時から厚生労働記者会で行われた抗議会見には、各地の原告が病床からオンラインで参加し、深刻な被害の実情と副反応検討部会の議事に対する怒りを、記者クラブのメディアの方々に伝えました。
会見の冒頭、水口真寿美弁護士(全国弁護団共同代表)は、副反応検討部会が、厚労省の事務方が用意した偏った知見を鵜呑みにし、副反応の実態を理解せずに、積極勧奨再開に妨げる要素はないとする結論を導いたことの不当性を強く批判しました。
特に、この日の検討部会において、積極勧奨再開によって副反応患者が増えてもいいように協力医療機関の数を増やす必要性があるなどとする意見が交わされていたことについては、HPVワクチンの重篤な副反応の治療法は確立しておらず、救済制度で障害認定を受ける重い被害の出現頻度が他のワクチンの20倍を越えるほど深刻であることを全く理解していない議論であることを指摘しました。
松藤美香全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会代表は、勧奨中止から8年が経過して被害者は大人の女性となり、本来なら大学生や社会人となる年代であるが、失われた10代を思い出したくもないという気持ちを抱えながら、20代になっても仕事に就くことができるような体調ではない日々を過ごしていることを説明しました。
続いて、HPVワクチン薬害訴訟の原告が、副反応検討部会の審議を傍聴して感じた心情を語りました。以下、その発言の一部をお伝えします。
■落合晴香さん(名古屋訴訟原告)
私たちは8年間、ずっと元の体に戻してほしいと訴えてきました。しかし、未だに治療法はなく、訴えはじめてから何も変わっていません。
私にとっての8年間での一番の変化は、将来に向かっての不安がどんどん大きくなったということです。こんな変化を私は望んでいません。
協力医療機関体制の整備やリーフレットの見直しも議論に上がっていましたが、それは私たちの声を聴いた上で行われるのでしょうか。今一度私たちの声をしっかり聞いて下さるようお願いします。
■望月瑠菜さん(東京訴訟原告)
勧奨再開が議論されているのは、この先の未来で子宮頸がんで苦しむ女性やその家族の姿を想像してのことだと思いますが、私たちが今辛い思いをしている姿は思い浮かばないのでしょうか。本人だけでなく、我が子にワクチンを受けさせてしまったと自分を責める家族の辛さも想像してもらいたいです。
国に対し、私たち被害者にとって意味のある行動を求めていきたいです。
■畑原清花さん(九州訴訟原告)
勧奨再開を前提とした話ばかりで、私たちの声は届いていないんだとがっかりしました。
また、私たちを見ることなく、数値だけを見て判断されるんだと感じました。そして形だけの「寄り添った支援」で十分だと考えられていることも納得できません。
協力医療機関では、ワクチンは関係ないしできることは何もないと言われて返されただけです。これは寄り添うどころか突き放すような対応です。これでも寄り添った支援と言えるのでしょうか。
審議内容は現状からかけ離れています。接種から9年が経とうとするのに治療法もありません。
再開すると私たちと同じような被害者がでるだけです。8年前に戻るだけです。もうこれ以上被害を広げないで下さい。
■土岐梨奈さん(東京訴訟原告)
再開を検討しているって聞いて、私たちのことは数字として見ていて、そして消したい数字なんだなって思いました。被害者の私たちとしては疎外感を感じました。消される存在なのかなって。私は今妊娠中ですが、今後生まれてくる子どもにもワクチンを打たなきゃいけないってなったときに、子どもが副反応になったときに、またこういうふうに無かったことにされるんじゃないかって、不安が募ります。
うまくまとめられませんが、議論を見ていると、今までの私たちの苦労ってなんだったのかなっていうのが、一番の感想です。
■平原沙奈さん(東京訴訟原告)
再開と聞くと、私たちの声はやっぱり聞こえていないんだなっていうのが第一の思いです。
毎日苦しんでいる、そこをしっかりちゃんと見た上で検討してほしいなって感じます。
■梅本邦子さん(九州原告梅本美有さんの母)
今日の議論で、始めから終わりまで再開が前提とされている内容にとても驚きました。副反応の症状は接種時の痛みとか心理的なものとして片付けられてしまっており、危険性についてしっかり検討すべきなのではないかとおっしゃる方が1人もいませんでしたし、そういう姿勢はみじんも感じられませんでした。
うちの娘は8年前に接種してからずっと副反応の症状に苦しめられています。その苦しみを分かっている家族として勧奨を再開するというのはどうしても許すことはできません。
副反応についてもっと深く議論して検討していただいて、再開の議論はそれからなんじゃないかなと思いました。
■東京原告5番
今ベッドの上から話しています。今日体調が悪くて、身支度ができなかったので、カメラオフで参加しました。このように、倦怠感、疲れやすさが続いています。家事、洗濯なども、みな家族に頼っています。
このような生活が9年間続いています。来年で10年ですが、まだ治療法は確立されていません。
今年から少しずつ在宅で出来る仕事を始めましたが、それも体調に左右され、今週はほとんど出来ませんでした。こんな状態なので、会社に所属して働くことは到底できません。
私の願いはひとつだけです。積極的勧奨の再開の前に、どうか治療法を開発してください。これはずっと変わらない願いです。
書類の上では行政による支援が行き届いているのかもしれませんが、残念ながら私にその実感はありません。体が重くてずっと鉛を背負っているような感覚から早く解放されたいです。
■東京原告15番
現在20歳です。YouTubeで傍聴しましたが、厚労省や検討部会の先生たちの目には、HPVワクチン接種後に苦しんでいる被害者の姿は映っていないなと思いました。検討部会では8年前よりもいろんなものが整ってってきた、副反応の懸念がなくなってきたとはっきり言っていましたが、ありえません。
協力医療機関はほとんど機能していないです。私は協力医療機関に7年継続して受診しています。「きみは子どもだし単純だからすぐ治るよ」と言われて7年です。全く治っていません。
都道府県の相談窓口にも、相談にこたえられる人はいません。高校入学時と卒業時に相談しましたが、何の回答も得ることができませんでした。
これが安心して接種できる体制で、被害者に寄り添った支援と言えるのでしょうか。何ひとつ解決なんてしていません。8年間全く変わらない毎日を死んだように生きています。まずは私たちの被害を正しく理解して向き合うべきだと思います。
■九州原告10番
21歳です。全身の筋緊張で右足には麻痺があり、熱いお湯をかけられても誰か触ってもわかりません。歩行はできませんし、痛みがずっと続いています。右側の視界はほとんどなく、前髪がかかっていても気がつかないことが多いです。誰かの支えがないと1人では行動できません。
「寄り添った支援が充実しているから再開してもよい」という検討部会の話を聞いて、憤りを感じました。これまでも見捨てられてきましたが、本当に見捨てられたんだなと思いました。
協力医療機関は3カ所受診しましたが、1カ所目はとりあってもらえず、2カ所目は詐病扱いされました。やっと3カ所目、片道8時間かかる医療機関で治療を受けることができましたが、今はコロナの問題で受け入れが停止されています。十分な治療を受けることがそもそも困難な状況です。
PMDAの補償は判定不能ということで不支給となりました。地元の自治体の支援も受けられません。これが現実です。これが何にも変わっていません。
この現実を知ってください。そして、この現実を知らない打つ世代の人に、どうか知らせてください。
■九州原告(匿名)
中2で接種してから10年が経ちました。25回の入院をしましたが、今もベッド上の生活ばかりです。
議論を拝見しましたが、副反応検討部会という名前なのに、推奨が前提であり、副反応のことが述べられていません。さらに私たちのことを心因性のものであり副反応でないような言い方をしています。
協力医療機関が84もあると言いますが、わたしはそこでまともな対応を受けたことはありません。
副反応の救済もちゃんと行われているといわれていましたが、まともに救済されていません。
研究機関もたくさんあるのに都合のよいものだけとりあげています。
私たちのことを見捨てないでほしいと、とても思っています。この問題について私たちのことをちゃんと見てくれるといいなとすごく思います。
■東京原告34番母
実際に病院に行っても治療法がないので、何も対応されません。このまま再開されても、何も被害は変わりません。どうかこの先も、接種を受けるお子さんたちが同じ症状に苦しまないように、本当にきちんと考えてほしいです。
各種薬害の被害者の団体で構成される全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)の代表を務める花井十伍さん(薬害エイズ被害者)にもオンラインで参加いただきました。
花井さんからは、医療体制が機能していないことを検討部会の委員が理解していないという問題についての指摘がありました。
薬害エイズ問題の際にも、国はエイズの拠点病院を300カ所ほど指定したけれどもほとんど機能せず、当初は全国で数カ所の病院の心ある医師が連携して必死になって患者を診察していただけで、裁判で勝訴した後になってようやく国が力を入れるようになり、全国の拠点病院が機能するようになっていきました。
花井代表は、こうした過去の薬害の際の経験を踏まえ、薬害被害者の治療体制は国が当事者と話し合って造り上げるものであると説明し、HPVワクチン問題において国が被害者のための治療体制の整備を本気で行おうとしていないことに強い怒りを感じると述べました。
杉並区会議員を務める曽根文子さんにもオンラインで参加いただきました。
曽根さんからは、副反応検討部会で協力医療機関で被害者に寄り添った対応をしていると説明されていたが、被害者から聞いた実情と全く異なっているので強い驚きを感じたこと、そして、議論が結論ありきで進められていて、副反応の症状について全く検討される場となっていないのに勧奨再開を妨げる要因がないとされたことに憤りを感じていることなどを話していただきました。
HPVワクチン東京訴訟支援ネットワーク代表の隈本邦彦さんは、今回の勧奨再開の検討が開始された背景には、MSD社が厚生労働省の元職員を執行役員とし、4価ワクチンが期限切れになるなどとして国に不透明な働きかけをしたという事実があることが明らかとなっていることを指摘し、報道機関がこうした事実に目を向ける必要性があることを解説しました。
被害者を置き去りとしたまま、危険なHPVワクチンの勧奨を再開することは全く許されません。副反応検討部会は、被害者の声を聞き、実際の副反応被害の検討を行い、その深刻さを理解することから議論を始めるべきです。
原告団・弁護団は、HPVワクチンの積極的接種勧奨再開に反対するための活動を続けていきます。
予断を許さない情勢が続いておりますので、どうか引き続きご支援下さい。