全国各市区町村長 殿
HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)に関する要請
2020(令和2)年10月16日
HPVワクチン薬害訴訟全国原告団
代表 酒井 七海
HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団
共同代表 水口真寿美
同 山西 美明
<連絡先> 東京都千代田区二番町12番地13
セブネスビル3階
樫の木総合法律事務所内
電話03(6268)9550
https://www.hpv-yakugai.net/
<要請の趣旨>
1 厚生労働省作成の新リーフレットを接種対象者に個別送付しないでください。
2 市区町村内の被害実態を把握して、HPVワクチン被害者への補償や、就学・就労を含めた生活支援の措置を速やかにとってください。
<要請の理由>
1 HPVワクチンの「情報提供」をめぐる現状
HPVワクチンは、販売開始から1年後という異例の早さで国家的な予防接種事業(緊急促進事業)が開始され、2013(平成25)年4月には予防接種法の定期接種となりました。しかし、副反応問題を受けて、わずか2か月後の6月14日に厚生労働省健康局長は、定期接種の積極的勧奨を差し控えることを勧告する通知(以下「2013年通知」といいます。)を出しました。
他方、厚生労働省設置の合同会議
ではHPVワクチン接種に関する情報提供のあり方が検討され、厚生労働省のリーフレットが改訂されてきました。今般、合同会議で、自治体からの個別送付を前提としたリーフレットの改訂が大筋合意されたことをふまえて、10月9日、厚生労働省健康局長は、2013年通知を一部改正し、積極的勧奨の差し控えは維持しつつ、新リーフレットを自治体から接種対象者に個別送付するよう求めています。
2 新リーフレット個別送付による被害拡大の危険性
(1) 副反応被害者の実情とHPVワクチンの危険性
積極的勧奨差し控えの理由となったHPVワクチンの副反応は、頭痛、全身の疼痛、感覚障害(光過敏、音過敏、嗅覚障害)、激しい生理痛、脱力、筋力低下、不随意運動、歩行障害、重度の倦怠感、集中力低下、学習障害、記憶障害、発熱、月経異常、過呼吸、睡眠障害など、全身に及ぶ多様な副反応が一人の患者に重層的に表れるという特徴を有しています。その治療法は確立しておらず、被害者は現在も副反応症状に苦しんでいます。副反応として専門的な治療を行っている医療機関は全国でもわずかであり、そうした医療機関への遠距離入通院は患者に重い負担となっていますし、そもそも適切な治療を受けられていない人も少なくありません。
副反応は、日常生活や就学に重大な影響を及ぼし、10代前半で接種した被害者の女性たちは、通信制高校等への転校、進学や将来の目標の断念といった深刻な被害を受けてきました。そして、社会に出る年齢となったいま、副反応は就労の重大な障害となっています。
副作用被害救済制度における、障害年金の対象となる障害(日常生活が著しく制限される程度の障害)の認定数(100万人あたり)は、他の定期接種ワクチンの死亡及び障害の認定数の約15倍となっており、こうしたデータからも副反応の重篤性とHPVワクチンの高い危険性が示されています(別紙1)。
(2) 危険性を軽視した新リーフレットによる接種者増加の懸念
新リーフレットは、このような深刻な副反応の危険性があることが伝わるものとはなっていません。また、改訂前のリーフレットでは明記されていた、国が積極的勧奨を差し控えている事実の記載も削除されました。
協力医療機関が設置されているとしていますが、被害者が安心して受診できる医療機関は乏しく、差別的な対応をされる例が後を絶ちません。また治療法が確立していない現状では、協力医療機関によっても完治は期待できません。予防接種被害救済制度も、十分には機能していません。国が副反応の因果関係を明確に認めていない中では、医療機関から申請に必要な協力を得られないケースや、申請しても給付が受けられないケースが多数存在しています。また、認定を受けられたとしても多くは医療費(あるいはその一部)のみであり、深刻な被害に対する補償としてきわめて不十分です。
一方で、新リーフレットでは、子宮頸がんの危険性やHPVワクチンの効果が内容的にも、視覚的にも強調されています。私たちは、このような新リーフレットは「情報提供を装ったアンフェアな接種勧奨」であると考えており(別紙2)、もしこれが接種対象者に個別送付されれば、接種者数が増加することが予想されます。
(3) 副反応被害者増加の可能性
私たちは、上記の副反応症状は、HPVワクチンと因果関係があると考えていますし、国も、HPVワクチンの接種による痛みまたは痛みに対する恐怖が惹起する心身の反応ないし機能性身体症状であるとして、限定的にではありますがHPVワクチン接種との因果関係を認めています。しかし、どのような人に副反応が生じやすいのか、どうすれば副反応を防ぐことができるのか、といったことは全く分かっていません。
こうした中で接種者数が増加すれば、再び副反応被害者が増加する可能性はきわめて高いといえます。そして、治療法が確立しておらず、救済制度も十分に機能していない現状では、新たな副反応被害者も、原告たちと同じように困難な事態に直面することになると考えられます。実際に、積極的勧奨が差し控えられている中で接種し、副反応被害を受けた方の事例をご紹介しておきます(別紙3)。また、接種の積極的勧奨が行われた当時の自治体関係者からも、治療法や救済策が確立していない中で接種者が増加することについて、強い懸念を示す声が上がっています(別紙4)。
(4) 住民を守る対応を
原告たちはじめ被害者は、これ以上自分たちと同じような被害者は出して欲しくないと願っています。貴市区町村におかれては、住民の健康と自己決定権を守る立場から、新リーフレットを接種対象者に個別送付されないよう要請します。
なお、新リーフレットを個別送付される場合には、国が積極的勧奨を差し控えている旨を明記した文書をあわせて送付されるようお願いします。
3 被害者への補償と支援の措置を
HPVワクチン接種によって重い副反応被害に苦しんでいる被害者は、全国各地に多くいます(薬害訴訟の原告だけでも全国で130人に及んでいます。)。
被害者の多くは、適切な補償を受けられていません。特に、緊急促進事業での接種被害には自治体加入の予防接種補償保険が適用対象とされているものの、被害者にはほとんど適用されていません。
また、被害者は、適切な治療も受けられていない上、就学・就労や日常生活にも困難を来しています。厚生労働省が定める都道府県相談窓口体制は機能しておらず、被害者は適切な支援が受けられていません。きめ細やかな支援は市区町村が最もよく行えることであり、その積極的な支援措置が切実に求められています。
そこで、市区町村内の被害者とその置かれている実態を把握し、補償の早期実現と、被害者が必要とする支援措置を速やかにとることを求めます。
4 被害者の実情を知って下さい
以上の私たちの要請の前提として、各市区町村のみなさまに、副反応被害者の実情を知って頂くことが不可欠であると考えています。副反応被害者の実情については、当弁護団のウェブサイトにおいて情報提供しているほか、ご要望に応じて資料提供やご説明(訪問、オンライン)させて頂きますので、頭書の連絡先までお問い合わせ下さい。
以 上