「情報提供を装ったアンフェアな接種勧奨」の撤回を求める意見書を提出しました

 本日、HPVワクチン薬害全国原告団・弁護団は、下記意見書を提出しました。

 是非ご覧下さい。

 


2020(令和2)年7月28日

厚生労働大臣 加藤勝信 殿
厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会 委員 各位
薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 委員 各位

HPVワクチン薬害訴訟全国原告団
代表  酒 井 七 海
                    HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団
共同代表  水 口 真寿美
共同代表  山 西 美 明
<連絡先>              
 〒102-0084 東京都千代田区二番町12番地13
セブネスビル3階
電話03(6268)9550
https://www.hpv-yakugai.net/


HPVワクチン リーフレット改訂案に対する意見書
―「情報提供を装ったアンフェアな接種勧奨」の撤回を求める―

 

 厚生労働省は、本年7月17日、HPVワクチンに関するリーフレットの改訂案 (以下、「リーフレット案」といいます)を、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会及び薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議(以下、「合同会議」といいます)に提示しました。
 リーフレット案は、全体にHPV感染と子宮頸がんの関係を正しく伝えず不安を煽り、HPVワクチンの有効性は過大に、副反応は過小に記載した不適切なもので、「情報提供を装ったアンフェアな接種勧奨」というべき内容です。
 厚生労働省は、リーフレット案を情報提供と称して個別に配布することを予定していますが、これは、HPVワクチン接種の積極的勧奨の一時中止とともに都道府県知事に対して発せられた、平成25年6月14日の健康局長通知(健発0614第1号)   において、「周知方法については、個別通知を求めるものではない」としていたことに反するといえます。
 リーフレット案の問題点は多々ありますが、主要な点を列挙すれば以下のとおりです。


1 HPVワクチンのリスクを適切に伝えていない


  HPVワクチンの接種を検討している人が、本当に知りたいと考えているはずのリスクに関する情報が、適切に記載されていません。
   
(1)多様な症状のごく一部しか記載されていない


 HPVワクチンの副反応症状としては以下のような多様な症状が報告されています。  

HPVワクチンの副反応症状は、これが一人の人に重層的に現れるという特徴があります。

①運動に関する障害   
 不随意運動、脱力、歩行失調、姿勢保持困難、握力低下、けいれんなど


②感覚に関する障害
 激しい頭痛、関節痛、筋肉痛、腹痛、全身疼痛、視覚障害、光過敏・音過敏・嗅覚過敏、四肢のしびれなど


③自律神経や内分泌に関する障害
 発熱、月経障害、過呼吸、睡眠障害、むずむず脚症候群、立ち眩み、めまい、体温調節困難、手汗などの発汗過多、手足の冷感、吐き気・嘔吐、下痢、便秘、排尿障害など


④認知機能や感情・精神機能に関する障害
 学習障害、記憶障害、見当識障害、相貌認知障害、集中力の低下、気力の低下、著しい倦怠感・疲労感、不安感など

 

 しかし、本人・保護者向けリーフレット案では、これらの症状のうち「広い範囲の痛み、手足の動かしにくさ、不随意運動」というごく一部しか紹介されておらず、またそれらが一人の人に重層的に現れることも書かれていないため、実際に被害者に現れる症状とその深刻さが伝わりません。


 例えば、学習障害・記憶障害は、全国120名(2018年当時。現在は130名)の原告の8割以上が経験して、今も多くの原告が苦しんでいる症状のひとつです  。しかし、このことは、医療従事者向けのリーフレット案には「認知機能に関する症状(記憶障害、学習意欲の低下、計算障害、集中力の低下等)」と記載されていますが、本人や保護者向けの2種類のリーフレット案では、「認知機能に関する症状」との記載しかなく、具体的な症状が分からないものになっています。この点の不当性は、平成30年1月版リーフレットに対する私たちの緊急要望書 でも指摘したことです。


 このようなリーフレットでは、副反応が出たときに、被害者は「どうして予め知らせてくれなかったのか」と思うはずです。また、どのような症状があるのかを知らなければ、そもそもHPVワクチン接種後に現れた症状が副反応かもしれないと気づくこともできなくなってしまいます。実際、多くの被害者は、副反応であると気づかず原因も治療法も分からないまま、数多くの医療機関を受診する結果となっています。副反応症状の分かりやすい記載は不可欠です。
 
(2)他のワクチンと比較した危険性が記載されていない


 リーフレット案では、HPVワクチンによる重篤な副反応報告の頻度は、1万人に5人と記載されています。しかし、報告される副反応の数は、実際に発生している副反応の氷山の一角です。しかもこの報告の頻度だけを見ても、それがワクチンとして危険なのかどうか判断することができません。そこで、他のワクチンと比較して高いのか否かが重要な情報となりますが、これが記載されていません。
 HPVワクチンの重篤副反応報告頻度は、他の定期接種ワクチンの平均と比較して約8倍です(別表1)。
 副作用被害救済制度では、日常生活が著しく制限される程度の重い障害は、障害年金支給の対象となりますが、HPVワクチンはその認定頻度も他の定期接種ワクチンと比較して約15倍と圧倒的に高くなっており、さらにHPVワクチンの定期接種からの認定頻度に絞って比較すると30倍以上となります(別表2)。

(3)治癒が期待できる治療法が確立していないことが記載されていない


 副反応について、治療法があるのか、治るのかは、接種するか否かの判断をするに当たって非常に重要な情報です。HPVワクチンの承認から10年以上経過した現在においても、治癒が期待できる有効な治療法はありません。しかし、このことが記載されていません。

 

 厚生労働省は協力医療機関を公表していますが、その中でも被害者が安心して受診できる医療機関はごくわずかしかなく、協力医療機関で被害者が差別的な対応をされる例も後を絶ちません。そのため、多くの被害者が、もう10年もの間、副反応症状に苦しみ、進学や就職を諦めた人も少なくなく、先の見えない不安を抱えながら生きているのです。

(4)救済制度について過度の期待を抱かせる内容となっている


 リーフレット案の詳細版には救済制度に関する紹介がありますが、そもそも医療機関から申請自体に必要な協力を得られないケースや、申請しても、認定までに長期間を要した挙げ句、判定不能等として給付が受けられないケースが多数存在しています。厚生労働省は、副反応症状を「機能性身体症状」であるとして、限定的にしかHPVワクチン接種との因果関係を認めていないため、救済制度の認定を受けられるケースも限定的となるのです。また、認定を受けられても多くは医療費(あるいはその一部)のみであり、深刻な被害に対する補償としてきわめて不十分です。

 

 リーフレット案は、治癒が期待できる治療法がないことを記載しない一方で、副反応が出現しても救済制度があると記載することにより、ひとたび副反応が出現したときに、被害者が置かれる困難な状況を理解できない内容となっており不当です。 
 
2 積極勧奨を一時中止していることが記載されていない


 HPVワクチンは、副反応について国民に十分な情報提供ができないという理由から、前記のとおり、厚生労働省は、平成25年6月14日の通知(健発0614第1号)により、接種の積極的勧奨を一時中止しています。


 定期接種でありながら積極的勧奨をしないというのは、異例の対応です。副反応のためにそういう特別な措置がとられているワクチンであるという情報は、接種するかどうかの判断において重要です。そのため、これまでのリーフレットでは、「現在、子宮頸がん予防ワクチンの接種を積極的にはお勧めしていません」(平成25年6月版 )、「HPVワクチンは、積極的におすすめすることを一時的にやめています」(平成30年1月版 )と、目立つように明記されてきました。

 

 しかし、リーフレット案ではこれが削除されています。「おすすめするお知らせをお送りするのではなく、みなさまに情報をお届けするものです」という記載がありますが、これでは積極的勧奨の一時中止の措置がとられていることを伝えたことにはなりません。

3 有効性の限界についての記載が不十分である


(1)子宮頸がんを予防する効果が証明されていないことが記載されていない


 HPVワクチンが子宮頸がんを予防する効果は証明されていません。証明されているのは前がん病変を防ぐ効果のみで、その持続期間も限定的です。
子宮頸がんを予防する効果が証明されているのかどうかは、接種をするかどうかを決定するうえで重要な科学的事実です。

 

 しかし、この事実は、医療従事者向けのリーフレット案には「HPVワクチンは新しいワクチンであり、がんそのものを予防する効果を示す報告はまだ少ないため、現段階では証明されたとはいえません」 と記載されていますが、本人及び保護者向けのリーフレット案には記載されておらず、むしろ「接種が進んでいる一部の国では、子宮けいがんを予防する効果について示すデータも出てきています」 と、がんを予防する効果が確認されていると誤解されかねない記載がなされています。これまでのリーフレット、たとえば平成30年1月版の本人・保護者向けリーフレット6には、「HPVワクチンは新しいワクチンのため、子宮けいがんそのものを予防する効果は、現段階ではまだ証明されていません」という記載がありましたが、厚労省はあえて削りました。不適切という他はありません。

(2)子宮頸がんの50~70%を予防できるという誤解を招く記載である


 一方で、リーフレット案では、「子宮頸がんの原因の約50~70%を防ぎます」と記載しています。


 原因を防げば結果もないというのが日常的な因果関係の理解です。従って、この記載を読めば、子宮頸がんも50~70%防げると思うのが普通です。しかし、医薬品の場合、原因となると思われる事象を改善ないし予防できることが証明されても、本来の目的である疾病の改善ないし予防の結果につながらない、という例は枚挙にいとまがありません。だからこそ、医学界では、がんそのものを予防する実証的なデータが得られるかどうかに関心が持たれているのです。

 

 「子宮頸がんの原因の約50~70%を防ぎます」との記載は、子宮頸がんを予防する効果が証明されていないことを記載していないことと相まって、誤った情報を伝える結果となっています。

(3)世界におけるワクチンの接種状況の説明が恣意的である


 詳細版のリーフレット案では、他の国での接種状況が掲載されていますが、フランスやコロンビアなど接種率の低い国の紹介がありません。選択が恣意的です。

4 HPV感染と子宮頸がんの関係を適切に伝えず、不安を煽っている


 HPV感染と子宮頸がんの関係について、「女性の多くが一生に一度は感染する」に下線をして強調したり、赤い枠で囲って太字で強調したりしています。

 

 「女性の多くが一生に一度は感染する」ことは事実ですが、感染してもほとんどが自然に消え、感染者のうちがんに進展するのはごく一部だけです。HPV感染によって受けるリスクを伝えるという観点からすれば、より重要なのは、感染者のごく一部のみががんに進展するという事実の方です。しかし、リーフレット案はそれをあえて前提に過ぎない部分に下線を引き、感染への恐怖心を煽る内容となっています。


 また、子宮頸がんは、検診によって早期発見・早期治療すれば予後のよいがんですが、その基本的な情報も記載されていません。


 全体に子宮頸がんと感染についての正しい情報を伝えず、不安を煽ることに重点を置いた不適正な記載といえます。

5 被害者に対して責任をもてる情報提供なのか


 以上のとおり、リーフレット案は、全体として、HPV感染と子宮頸がんの関係を含めてHPVワクチンに関する情報を正しく伝えているというにはほど遠く、不適切なものと言わざるを得ません。リーフレット案の作成に至る合同会議での議論は、私たちがやはり不適切な情報提供であると批判4してきた平成30年1月版リーフレット6の改訂を、『いかにして接種者を増やすか』という観点から検討したものといえます。その結果、HPV感染の危険性とHPVワクチンの有効性が強調され、副反応の情報が過度に抑制されたリーフレット案は、読んだ人に『接種しよう』『接種しなければ』と思わせる内容となっています。「おすすめするお知らせをお送りするのではなく、みなさまに情報をお届けするものです」という記載は、単なる責任逃れのための記載としか映らないのであり、リーフレット案は、「情報提供を装ったアンフェアな接種勧奨」というべきものです。


 私たちは、このようなリーフレット案の撤回を求めます。

 

  現在のところ、どのような人に副反応が現れやすいのか、あるいはどうすれば副反応を予防できるのかといったことは、分かっていません。従って、HPVワクチンの接種者が増加すれば、再び副反応の被害者も増加する可能性は非常に高いと考えられます。厚生労働省の関係者や合同会議の委員には、このリーフレットを読んでHPVワクチンの接種を決断し、重篤な副反応被害に苦しむことになる被害者に対して、「フェアに情報を提供した、選択したのはあなただ」と言える内容となっているのか、そのことを自問していただきたいと思います。

以上


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HPVワクチン リーフレット改訂案に対する意見書―「情報提供を装ったアンフェアな接種勧奨」の撤回を求める―
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