日本医師会への要請と第3次提訴原告による意見陳述~HPVワクチン薬害東京訴訟第12口頭弁論回期日

 2019年11月25日、HPVワクチン薬害東京訴訟の第12回口頭弁論が開催されました。当日の午前11時より、HPVワクチン薬害全国原告団・全国弁護団は、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会・全国薬害被害者団体連絡協議会との連名で、日本医師会に要請書を提出しました

 これは、日本医師会が年度内にもHPVワクチンの接種率向上を目指して声明を発表することを検討していると報道されたことから、被害者の存在を無視してそのような声明が発表されることがないように求めるための行動です。

 東京・駒込の日本医師会館には、原告本人12名を含む原告団・弁護団・支援者ら約70名が集まりました。

 日本医師会館内には、今回の要請行動を代表する形で、HPVワクチン薬害東京訴訟原告の伊藤維さん・園田絵里菜さん・宮森未琴さん、水口真寿美全国弁護団共同代表、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会の松藤美香代表、全国薬害被害者団体連絡協議会の浅川身奈栄さんが入館しました。

 そして日本医師会の釜萢敏(かまやち・さとし)常任理事と面会し、東京原告の宮森未琴さんから要請書を交付しました。

 今回の要請書では、日本医師会に次の3点を要請しました。これらはHPVワクチンの深刻な副反応に苦しむ被害者らの切実な願いです。

  1. 国民に接種を推奨したり、国に積極的勧奨の再開を求めるような声明は発表しないでください。
  2. 医師に副反応の病態と被害者が置かれた状況を周知し、医療現場における偏見を解消してください。
  3. 治療法の確立のための研究の促進や副反応被害者が真に望む治療体制を整備してください。

 また、今回の要請書では、日本医師会が要請事項を検討するにあたって、まず被害者と面談して被害者の実情を聞く機会を設けてほしいということも伝えました。

 要請内容に対する回答は後日にということとなりましたが、日本医師会が、本日入館できなかった多くの原告や家族らの声にも耳を傾ける姿勢を持っていることを、今回要請した4団体はいずれも心から期待しています。

 日本医師会への要請終了後は、午後1時10分より、東京地方裁判所の正門前では期日前のリレートークを行いました。

 東京弁護団の阿部哲二副代表からは、この日が東京訴訟第3次提訴原告にとって初めての期日であることを集まった大勢の支援者の皆さんに説明し、より一層のご支援をお願いしました。

 薬害肝炎全国原告団の樋口智子さんからは、ご自身が薬害裁判を闘った際の思いを振り返りながら、同様の思いを抱えてHPVワクチン薬害訴訟に参加している原告の皆さんに対する暖かい応援のメッセージをいただきました。

 HPVワクチン訴訟東京支援ネットワークの江川守利さんは、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会のみなさんと共に開催した勉強会の様子を紹介し、12月8日に予定されている東京支援ネットワークの第3回総会への参加を呼びかけました。

 リレートーク終了後は、大勢の支援者の皆さんに見守られて、原告団と弁護団が東京地方裁判所に入廷しました。

 午後2時に開廷した口頭弁論では、東京訴訟第3次原告である宮森未琴さんが意見陳述を行いました。

 宮森さんは、小学校の頃はミニバスケットボールの少年団に所属するなど、身体を動かすのが大好きでしたが、中学校1年生でサーバリックスを接種してから、頭痛、耳痛、難聴、過呼吸、脱力、手足の痺れなどの様々な症状に悩まされるようになりました。

 中学3年生になると、全身痛が悪化し、体に軽く触れられるだけで激痛が走るようになりました。また、物忘れをするようになったり、太陽や車のライトを過剰にまぶしく感じるようになるといった多様な症状が出てきました。

期日終了後に厚生労働省で行った記者会見で発言する宮森未琴さん(東京原告59番)
期日終了後に厚生労働省で行った記者会見で発言する宮森未琴さん(東京原告59番)

 宮森さんにとってつらかったのは、これらの症状の苦しみに加えて、自分の症状について周囲の理解が得られないことでした。具合が悪くなるたびに、先生や同級生から「もっと頑張れないの?」などと言われたり、部活の顧問の先生に「体調管理ができていない」と怒られたりしたそうです。

 宮森さんは厚生労働省が公表しているHPVワクチン接種後の症状の診療に係る協力医療機関を受診しましたが、診察を担当した医師からは「誰でもありうることだから」と言われるばかりで、被害実態に向き合ってもらえないままでした。

 宮森さんには看護師か音楽の先生になりたいという夢がありましたが、高校に入ってからは保健室登校となることも多く、授業についていくことが難しい状況が続いたため、進学するという夢を諦めざるを得ず、高校卒業後は就職して一人暮らしをすることになりました。

 しかし、就職してわずか数ヶ月後には、立っていられないほどのめまいや吐き気、右腕全体の不随意運動といった、今までで一番と思えるほど酷い症状が出現しました。宮森さんは、上司に付き添われて受診した病院に入院となり、その後も入退院が続きました。

 結局宮森さんは、就職してわずか半年後には退職を余儀なくされてしまいました。
 こうした経験を語った宮森さんの言葉には、就職してやっと独り立ちできると思った喜びを断ち切られた悔しさが滲み出ていました。

 これから先の将来、今のままでは不安しかありません。

 この病気を理解して寄り添ってくれる人はいるのでしょうか。

 子どもは産めるのでしょうか。

 いくつもの辛い症状が落ち着く日、完治する日が来ることはあるのでしょうか。

 不安しかありませんが、それでも生きていくしかありません。

 いつまでも親に世話し続けてもらうわけにはいかないし、これ以上私達と同じ思いをする人が増え続けないように、声をあげられない仲間のために、同じ思いを持った仲間達と一緒に裁判に参加しようと決意しました。

 私達被害者は、お金じゃ買えないものを幾度となく無くしてきているんです。

 ですが、どんなに泣いても怒っても時間も学生時代も返ってくることはありません。

 なので、せめて、私達被害者から目を背けず、副反応を認め、治療法を見つけてください。

 完治して当たり前の生活ができる体にしてください。

 涙を滲ませながらも毅然とした態度でこのように語った宮森さんの言葉によって、被害実態の深刻さを満席となった傍聴者の皆さんに対して、あらためて伝えることができたと思います。

 

 続いて、東京弁護団の大久保秀俊弁護士が、被告国の主張に対する反論として、

①平成25年6月にHPVワクチンの積極的勧奨を差し控えた理由が「報道の過熱」や「社会不安」への対応であったとする被告国の主張が誤りであること

②厚生労働省の設置する副反応検討部会(合同会議)の審議資料には、重い副反応症状に苦しむ原告らの症例に関する情報がほとんど含まれておらず、合同会議でHPVワクチンの安全性が確認されたとする被告国の主張が誤りであること

の2点について意見陳述を行いました。

期日後の報告集会で意見陳述の内容を解説する大久保秀俊弁護士
期日後の報告集会で意見陳述の内容を解説する大久保秀俊弁護士

 厚労省は平成25年6月から、子宮頸がんワクチンの定期接種について積極的な勧奨を差し控えることを求める通知を出しています。

 この通知の本文には「合同会議において、ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛がヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン接種後に特異的に見られたことから、同副反応がより明らかになり、国民に適切な情報提供ができるようになるまでの間、定期接種を積極的に勧奨すべきではないとされたところである」と記載されています。

 その後の合同会議では、現在に至るまで、HPVワクチンの安全性への懸念がなくなったというような結論は一度も出したことがありません。だからこそ、HPVワクチンの積極的な勧奨を控えるという厚労省の通知は今も続いているのです。

 積極勧奨が中止された理由は、被告国が述べるような報道の過熱や社会不安への対応などではなく、HPVワクチンの安全性への懸念そのものにあることは明白です。

 また、副反応検討部会(合同会議)には、厚労省が審議資料として、HPVワクチンの副反応報告のうち、死亡症例と重症症例については詳細な資料を提出するという扱いとされてきました。

 しかし東京原告61名のうち5名についてはそもそも副反応症例として報告自体がなされておらず、その被害の実情が合同会議での議論には全く反映されていません。

 また、残る56名のうち重症症例として詳細な資料が提出されているのはわずか10名に留まっています。重症症例として扱われていない51名の原告らも同様に重い症状に苦しんでいますが、こうした深刻な被害実態の詳細については、合同会議での審議資料とされないままとなっています。

「このように、深刻な副反応症状に苦しむ原告らと向き合おうとせず、審議会においてもまともに検討さえしていないという被告国の態度は強く批判されるべきものです。

 これ以上、将来ある若い女性に、人生をも狂わせる深刻な副反応被害を生み出さないためにも、裁判所の科学的かつ適切な判断をお願いいたします。」

 大久保弁護士はこのように述べて意見陳述を結びました。

 期日後は、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会及び全国薬害被害者団体連絡協議会と合同で、厚生労働省内の記者クラブにおいて日本医師会への要請行動等についての会見を行いました。

 水口真寿美HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団共同代表からは、日本医師会宛に要請を行った意義と要請内容を説明しました。

水口真寿美HPVワクチン薬害全国弁護団共同代表
水口真寿美HPVワクチン薬害全国弁護団共同代表

 全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会の松藤美香代表は、治療法が確立されていない状況で積極推奨を再開すれば新たな被害がでることは確実だということに対して、日本医師会はもっと真摯に向き合って欲しいと感じていること、そして、すべての被害者に共通しているのは自分の体を治してほしいということであると発言しました。

全国子宮頸がんワクチン薬害被害者連絡会の松藤美香代表
全国子宮頸がんワクチン薬害被害者連絡会の松藤美香代表

 全国薬害被害者団体連絡協議会の浅川身奈栄さんは、夫が薬害エイズの被害者であるという立場で長年にわたって薬害被害を経験してきた立場から、薬害は薬が起こすのではなく「人災」であり、実際に生じている重篤な副反応被害に目を向けることによって二度と同じことを繰り返さないでほしいと願っていることを、力強く訴えました。

全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)の浅川身奈栄さん
全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)の浅川身奈栄さん

 東京訴訟原告の宮森未琴さんは、日本医師会での要請書交付の際、釜萢常任理事に対して、過ぎ去ったこれまでの時間は帰ってこないのだから、副作用に苦しむ被害者の症状が完治する治療法を見つけてほしいと伝えたことを、記者の皆さんに説明しました。

HPVワクチン薬害東京訴訟原告の宮森未琴さん
HPVワクチン薬害東京訴訟原告の宮森未琴さん

 東京訴訟原告の伊藤維さんは、母親の送迎なしでは学校に通えず、到底一人で自立して生活できる状況でないことを説明し、被害者の声をもっときちんと聴いてほしい、人を助けたいとの思いから医師になったはずなのだから、被害者の私たちの声をしっかり聴いてもう一度このワクチンについて考えてほしいと訴えました。

HPVワクチン薬害東京訴訟原告の伊藤維さん
HPVワクチン薬害東京訴訟原告の伊藤維さん

 この記者会見を通じて、自分たちと同じ苦しみを味わう薬害被害者を二度と生じさせてはならないという想いが、すべての薬害被害者に共通のものであることを伝えることができたと思います。

 会見と並行して全日通霞ヶ関ビルで開催された報告集会には、大勢の支援者の皆さんが集まって下さいました。

 はじめに、東京弁護団の針ヶ谷健志弁護士が、当日の口頭弁論の内容を解説し、続いて大久保秀俊弁護士より法廷での弁護団意見陳述内容を説明しました。

報告集会で期日概要を説明する針ヶ谷健志弁護士(左)
報告集会で期日概要を説明する針ヶ谷健志弁護士(左)

 東京訴訟原告の園田絵里菜さんからは、日本医師会への要請に参加した際の状況を報告しました。

 あらたに東京3次提訴に加わった原告本人やご家族からは、それぞれの病状等について来場者に説明して、深刻な被害実態についての理解を求めました。
 来場した支援者のみなさんからは、当日の口頭弁論の感想を踏まえつつ、この裁判に参加する原告さんやその家族に対する暖かい応援のメッセージをいただきました。

 次回の東京訴訟は2020年2月26日です。引き続きご支援下さい。