2019年11月25日、HPVワクチン薬害全国原告団・全国弁護団は、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会・全国薬害被害者団体連絡協議会と連名で、日本医師会に対し、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の積極的勧奨の再開を求めるような声明を発表しないように要請し、被害者と面談してその実情を聞く機会を設けて欲しいと求めました。
要請書の全文は以下のとおりです。
日本医師会
会長 横倉義武殿
HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)に関する要請書
2019(令和元)年11月25日
HPVワクチン薬害訴訟全国原告団
代表 酒井 七海
HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団
共同代表 水口真寿美
同 山西 美明
全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会
代表 松藤 美香
全国薬害被害者団体連絡協議会
代表世話人 花井 十伍
<本件の連絡先> 千代田区二番町12番地13 セブネスビル3階
樫の木総合法律事務所内 電話03(6268)9550
https://www.hpv-yakugai.net/
<要請の趣旨>
HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)について、以下のことを求めます。
要請事項の検討に当たっては、被害者と面談し、被害者の実情を聞く機会を設けてください。
1 国民に接種を推奨したり、国に積極的勧奨の再開を求めるような声明は発表しないでください。
2 医師に副反応の病態と被害者が置かれた状況を周知し、医療現場における偏見を解消してください。
3 治療法の確立のための研究の促進や副反応被害者が真に望む治療体制を整備してください。
<要請の理由>
1 私たちは、日本医師会が、年度内に、HPVワクチンの接種率向上を目指して声明を発表することを検討しているとの報道に接し、被害者の存在を無視してそのような声明発表が検討されていることに大きな失望と憤りを覚えています。
日本医師会は、以下に述べる被害実態を理解されているのでしょうか。
(1)HPVワクチンの副反応報告は、他の定期接種ワクチンに比べて圧倒的に多く、報告数は100万回接種あたり335人で、そのうち60%が重篤例(死亡、障害、それらに繋がるおそれのあるもの、入院相当以上のもの)です(別紙1)。
HPVワクチンの副反応症状は、『疼痛や運動障害を中心とした多様な症状』などと表現されることが多いため、医師の間でも十分に理解されていませんが、頭痛、四肢・全身の疼痛、光過敏、音過敏、嗅覚障害、激しい生理痛、脱力、筋力低下、不随意運動、歩行障害、倦怠感、集中力低下、学習障害、記憶障害、発熱、月経異常、過呼吸、睡眠障害など全身に及んでいます。しかも一人の被害者にこれらの症状が重層的に現れ深刻です。
その深刻さは、副作用被害救済制度において障害年金の対象となる障害(日常生活が著しく制限される程度の障害)の認定数が、他の定期接種ワクチンの死亡及び障害の認定数の約12倍であるということにも示されています(別紙2)。
しかし、国が実態調査を行っていないことから、副反応の正確な発症頻度は分かっていません。
(2)治療法は確立していません。様々な治療が試みられていますが、治療によって治癒するといえる状況にはありません。
治療体制もきわめて不十分です。各都道府県は、日本医師会の協力の下で、都道府県医師会と連携して、HPVワクチン接種後に生じた症状の診療に係る協力医療機関を指定していますが、その協力医療機関においてさえ、医師の心ない言動が後を絶たず、被害者が信頼して受診できる状況にはありません(別紙3)。その結果、被害者は数少ない信頼できる医療機関に遠方から通わざるを得ない現状です。
日本医師会は、2015(平成27)年8月に「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」を作成しています。しかし、治癒に至る治療法を示したものではありません。また、面接・診察のポイントとして、患者や家族に、傾聴の態度(受容、共感)をもって接するよう心掛ける等と記載していますが、この点ひとつとっても、未だに適切に実行されているとはいえないことは、上記の協力医療機関の例をみても明らかです。
(3)救済制度も十分には機能していません。医療機関から申請に必要な協力を得られないケースや、申請しても、認定までに長期間を要した挙げ句、判定不能等として給付が受けられないケースが多数存在しています。
また、認定を受けられたとしても多くは医療費(あるいはその一部)のみであり、深刻な被害に対する補償としてきわめて不十分です。
(4) HPVワクチン接種前は青春を謳歌していた被害者の生活や人生は一変しました。接種当時は10代前半だった被害者の多くが成人になりましたが、将来の見通しが立ちません。社会的な偏見にもさらされています。
文集「原告の声」は、その被害の実情と悲痛な訴えの一端です(別紙4)。
なお、HPVワクチンの被害は日本特有のものではなく、海外でも発生しています。被害者の症状は日本と海外で共通であり、他のワクチンよりも高い頻度で副反応が生じ、重篤であることや、十分な治療や救済を受けられず、社会的な偏見にさらされていることも同様です。
2 HPVワクチン接種後の多様な症状の患者の診療と研究に当たっている医師は、一致してHPVワクチンの副反応の可能性が高いことを指摘しています。厚労省も、HPVワクチンの成分が原因であることは否定しているものの、接種の痛みないし痛みに対する恐怖心が惹起する心身の反応(機能性身体症状)であるとして、HPVワクチン接種が原因となること認めています(だからこそ、限定的であれ救済制度が適用されています)。
一方で、こうした副反応を防ぐ手立てはいまだに何ら見つかっていません。
このような状況の下で、HPVワクチン接種の積極勧奨を再開すれば、同じ苦しみを味わう被害者が多数生まれることは避けられません。
このことは、副反応症状を呈する患者の発生が、HPVワクチンの接種の積極勧奨とともに急増し、積極推奨の一時中止後には激減したことを報告した複数の論文 , からも容易に推測できることです(別紙5)。
治療法も確立しておらず、治療体制も整わず、救済制度も十分に機能していない状況の下で、深刻な副反応症状に苦しむ患者が多数生まれることを承知でHPVワクチンの積極推奨を再開することは、無謀というほかありません。
被害者を治療して癒やすべき立場にある日本医師会が、積極勧奨の再開に向けた声明を出し、更なる被害を生み出す政策を後押しするようなことは、あってはならないはずです。
3 そもそもわが国の子宮頸がんの罹患率や死亡率は増えているという状況にはありません(別紙6)。また、HPVワクチンが子宮頸がんを予防する効果は実証されておらず、予防できるウイルスの型やワクチンの効果の持続期間も限定的です。HPVワクチンを接種しても検診受診が必要であり、子宮頸がんは検診による早期発見早期治療で治癒が可能です。深刻な副反応被害再発のリスクを冒してまで、若年女性にHPVワクチンの大規模な接種を行うメリットはありません。
4 今、日本医師会に求められていることは、HPVワクチンの接種を推奨する声明を出すことではなく、医療現場に副反応被害についての正しい理解を広めて偏見を解消すること、治療法の確立のための研究の促進や副反応被害者が真に望む治療体制を整備することです。
日本医師会は、HPVワクチンの接種を推奨する方針を見直してください。また、被害者と面談のうえ被害の実情を十分に聞く機会を設けるよう要請します。
以上
別紙5
[1] Suspected Adverse Effects After Human Papillomavirus Vaccination: A Temporal Relationship Between Vaccine Administration and the Appearance of Symptoms in Japan, Kazuki Ozawa他, Drug Safety DOI 10.1007/s40264-017-0574-6 2017
[2] 子宮頸がんに関連した自己免疫脳症, 荒田仁他、神経内科89(3):313-319,2018