元の体に戻してほしい~HPVワクチン薬害東京訴訟第10回口頭弁論

 2019年5月22日、HPVワクチン薬害東京訴訟第10回口頭弁論が開催されました。

 今回も期日に先立ち、有楽町マリオン前にてHPVワクチン東京訴訟支援ネットワーク主催のビラ配りが行われました。

 ビラ配りには22名が参加して期日案内を配布し、原告本人や家族から、通行される方に対して被害の実情を説明しました。

 晴天の下、通りがかった人が自分から近づいてきてチラシを受け取ってくださったり、HPVワクチン被害について尋ねられるなど、多くの反響がありました。

 裁判所前で実施したリレートークでは、東京弁護団副代表の阿部哲二弁護士から、提訴から3年近く経過しており、この4月には裁判長が交代したことを説明し、今回の期日が、あらためて裁判所に対して事件の重大さや被害者の苦しみ、そしてワクチンに重大な欠陥があることを示す重要な機会であることを、傍聴に訪れた皆さんに伝えました。

 東京原告8番の佐藤奈津美さんは、記憶障害によって日常生活に支障が出ていることや、裁判のために北海道から東京まで来ると、足が動かなくなってしまうといった被害の苦しみを説明し、被害の実態を知ってほしい、関心を持ってほしいとの思いを伝えました。

 傍聴に参加した学生の方からは、社会の様々な立場の人がこの裁判に関わり、引き続き支援していく必要があると呼びかけていただきました。

 午後2時に開廷した口頭弁論では、東京原告33番の山田梨奈さんが、大浜寿美新裁判長と向き合って、意見陳述を行いました。

 山田さんは、幼稚園から小学校まで一度も休むことなく皆勤を続けており、ダンスやバスケットボール、水泳など体を動かすことが好きでした。しかし、中学1年生のときにガーダシル3回を接種したことで学校に通うこともできなくなり、彼女の生活は大きく変わってしまいました。

期日後の記者会見に臨んだ山田梨奈さん(東京原告33番)
期日後の記者会見に臨んだ山田梨奈さん(東京原告33番)

 それなのに担任の先生からはあたかも詐病であるかのように扱われ、保健室の利用や授業の見学についての配慮を受けられず、辛い思いを抱えることもしばしばでした。たとえ原因がわからなかったとしても、国がそれを学校にもっと早くに、きちんと周知してもらえていえれば学校の対応も変わったと思うと語った山田さんの思いは、多くのHPVワクチン薬害被害者に共通するものでもあります。

 中学2年生になってからは、右わき腹の肋骨あたりがひどく痛み、少し笑っただけでも激痛が走るほどでした。さらに左股関節と左足に痛みが生じるようになり、次いで右足にも痛みが出て歩けなくなりました。骨をのこぎりで切られるような激痛が発作的に出現して突然歩けなくなるため、外出時はほとんど車いすを使うようになり、通学にも大きな支障が出るようになってしまいました。

 中学2年の冬から中学3年となるころには、睡眠障害や失神、記憶障害といった症状も出現するようになりました。階段やエスカレータを登っている途中で突然気を失ってしまい、落ちてけがをしたこともありました。

 高校1年になり、専門施設で精査を受けてHPVワクチン後脳機能障害と診断されましたが、治療の手段もないため症状は改善しませんでした。演劇が好きで劇団に入って演技を学びたいという夢を持っていた山田さんでしたが、こうした体調のために、その夢に向かい合う機会も得られませんでした。

  

「自分ではもっと努力して頑張りたかったのですが、ひどい頭痛や痛みが突然出たり、自分はどうしようもない睡眠障害や記憶障害が出たりするので、体調が許しませんでした。」

 

「私にとって今の状態は、夢に向かって努力することも、自立して生活することも難しく、補償も治療もほとんど受けられないという状況です。もっと友達と楽しい時間を過ごしたかったし,お芝居に夢中になりたかったですが,それもかないません。」

 

「元の体に戻してほしい。どこかに行ってしまった私の楽しかったはずの大切な時間を返してほしい。それだけです。」

 

 そう語った山田さんの言葉からは、悔しさと悲しみがにじみ出ていました。

 続いて、東京弁護団の関口正人弁護士より、本件HPVワクチンには有用性が認められないことについて、裁判官にスライドを示しながら意見陳述を行いました。

報告集会で法廷でのプレゼン内容を解説する関口正人弁護士
報告集会で法廷でのプレゼン内容を解説する関口正人弁護士

 関口弁護士は、医薬品一般の有用性の意義と判断基準、そして健康人に対して使用するワクチンの場合には特に高い有効性と安全性が認められる必要があることについて、まず説明しました。
 その上で、本件HPVワクチンの場合、副反応が重篤でかつ発生頻度が際立って多いことなどから危険性が大きい一方で、子宮頸がんが罹患者数も特に多くなく予後も比較的良好であることや、子宮頸がんそのものに対する予防効果が確認されていないことなどからその有効性は限定的であり、さらには代替手段としての検診の存在を考慮すれば、本件HPVワクチンには有用性が認められず、製造物責任法上の「欠陥」が認められることを具体的に主張しました。

 

 期日終了後の司法記者クラブでの記者会見では、全国弁護団共同代表の水口真寿美弁護士より、提訴から約3年が経過し、提訴時には未成年だった原告の多くは、成年に達しているが、何も解決していないという実情にあることを説明しました。

 法廷で意見陳述を行った山田さんも記者会見に出席し、自立をしていかなければならない年齢に差し掛かっているが、今も車椅子で生活しており、アルバイトをフルタイムで行うこともできないため、将来がとても不安であるが、そんな中でも状況を変えようと勇気を出して実名で法廷で話をしたことを、直接記者に説明しました。

 山田さんの担当である鈴木順弁護士からも、以前は活発に動くことができていた山田さんの現在の生活にはいろいろな制約が重くのしかかっていることについて、多くの人に知ってもらいたいと願っていることを伝えました。

 

 会見と並行して弁護士会館で開催された報告集会には、40人以上の方にご参加いただきました。被害者と同世代の学生さんも多く集まって下さり、原告もその家族も、皆とても勇気づけられたと思います。

 報告集会では、木下正一郎弁護士が、当日の原告・被告双方の主張や意見陳述の内容を解説しました。

 集会に参加した学生の方からは、実際に傍聴してみて訴訟のことがよくわかり、今後も継続的に本訴訟について学んでいきたいと感じたとの発言が相次ぐなど、原告と支援者との連帯を深め、支援の輪の広がりを実感できる報告集会となりました。

 東京訴訟の次回口頭弁論は2019年9月11日(水)午後2時開廷です。引き続きご支援下さい。