HPVワクチンの積極的勧奨中止から5年を迎えて
2018年6月14日
HPVワクチン薬害訴訟全国原告団 代 表 酒井 七海
HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団 共同代表 水口真寿美
共同代表 山西 美明
2013年6月14日に「国民に十分な情報が提供できない」という理由で、国によるHPVワクチン接種の積極的勧奨が中止されてから5年が過ぎました。他の定期接種ワクチンと比較すると、HPVワクチンの100万回接種当たりの重篤副反応報告は平均して7倍以上、副作用救済制度における障害認定数は10倍近くも高くなっています。国は研究班の設置や協力医療機関の選定を行いましたが、依然として副反応を防ぐ方策や副反応症状の治療法は未確立です。国民が安心して接種できる状況にはありません。
HPVワクチンの承認から既に9年が経過し、接種時に中高生だった被害者の多くは成人となる年代を迎えていますが、今も有効な治療を受けられないまま、全身の疼痛や不随意運動のみならず、知覚障害、運動障害、睡眠障害、記憶障害・学習障害といった重篤な副反応症状に苦しんでいます。同級生が社会人となっていくのに、中学や高校へも満足に通学できず、思うような進学や就職を断念し、被害者を受け入れる医療機関も乏しい中で、先の見えない療養生活に強い不安を抱えつつ、日々の症状に耐え続けているのです。
同様の被害は海外でも発生しており、本年3月に東京で開催された国際シンポジウムには日本を含む5カ国の被害者団体が参加し、4月には共同宣言を公表して、国際社会に対し、被害実態調査や治療法の開発、生活・教育・就労支援の必要性等を呼びかけました。
この間、HPVワクチンの副反応に関する研究は確実に進展し、多様な症状が時間の経過とともに重層化していくという副反応症状の特徴を症例の集積に基づいて明らかにした研究、髄液・脳血流・末梢神経等の変化を報告した研究、マウスに神経変性による運動機能障害等が発生したことを報告した研究、接種時期と関連症状発現時期の重なりを示した研究などが積み重ねられています。これらの研究の中には、WHOの国際医薬品モニタリングの運用に関わる研究者らが、HPVワクチンによる副反応を正確に把握するためには、被害者が診断を受けた既存の疾患名のみを拾い上げるのではなく、多様な症状の組み合わせ(クラスター)に着目する必要があることを指摘した論文も含まれています。
製薬企業(グラクソ・スミスクライン社、MSD社)は、こうした研究の進展を無視し、WHOのワクチン安全性委員会(GACVS)や海外の規制当局はHPVワクチンの安全性を認めているとして接種の積極的推奨の再開を求めています。しかし、その根拠とされる疫学調査は、HPVワクチンの副反応の特徴を正しく捉えて行われたものではなく、安全性の根拠とはなりません。また、WHOには、HPVワクチンに関する利益相反や中立性を欠いた姿勢が認められることも明らかになっています。
現在、国内での接種率は1%以下となり、新規の被害発生は臨床現場からほとんど報告されていませんが、積極的勧奨を再開すれば、新たな被害者が再び生み出されることは必至です。本年1月に国はHPVワクチンのリーフレットを改訂しましたが、本人・保護者向けのリーフレットでは記憶障害・学習障害の危険性をあえて記載しておらず、国民には正しい情報すら伝えられていません。今、国がなすべきことは、積極的勧奨の再開ではなく、少なくとも定期接種からHPVワクチンをはずすことです。
わたしたちは、国と企業が、これ以上被害を拡大させることなく、法的責任に基づいて、これまでに生じた全ての被害を回復し、被害者が将来にわたって安心して過ごせるよう、治療法の開発や診療体制の整備を含む必要な施策を行うことを、あらためて求めます。